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2010 05,18 21:58 |
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葛+馬堂 「おい……来たぞ。」 あるホテルの一室。その扉の前で長身の男はノックと共に呼び掛けた。 ――居ない……のか? 人を呼び付けておいて、肝心の本人がすっぽかし、忘れているとは。馬堂は一呼吸付いた。ここでいつまでも途方に暮れている訳にもいかない。 (……今度会った時にきつく言っておくか。) 諦めて帰ろうと踵を返す。どうせ会う予定であった人物とは、今追っている案件で再会すると思い至ったからだ。無理に急かしたところで多分さらりとかわされてしまうに違いない。 扉の鍵は掛かっていないようだ。なんという不用心な。そう呆れるのと同時に、警戒心の強い葛氷見子にしては有り得ない事だった。弁護士という職業柄、感謝もされるが恨みを買う機会も多いのだ。自宅にしろ、出張先のホテルにしろ細心の注意を払わねばならない。不可思議な事態に馬堂は驚いた。 「……入るぞ。」 誰が聞いている訳でもないが、一言断りドアノブを捻って馬堂は部屋に入った。いささか男である以上許可無く侵入するのは気が引ける。が、そうも言っていられない。万が一、第三者が侵入していないか確かめなくては。照明は付いていて、中に人がいる気配もする。ただ静か過ぎる点を除いては。 「馬鹿娘、が……起きろ。」 ベッドで毛布にくるまる葛がいたことで、不確定は杞憂に終わった。彼女の耳には低音が響いたはずなのだが、起きる気配はない。 「お前が呼びつけたからきたんだろうが……葛。」 二度目の警告。先ほどより馬堂の声は怒りを含んでいたが、静かに諭している様だった。 「もぉう……誰よ?眠いのに。邪魔しないでちょう――だい」 余程深い眠りに落ちていたのか、目を覚ました葛は眉間に皺を寄せて不機嫌になった。目の前にいるのが誰かも見ずに悪態をつく。しかしすぐにその人物が誰かを知り、瞬きをした。 「聞きたい事がある……と聞いたのは、空耳か?」 「あら。嘘。何で、馬堂さんが居るのよ?」 「何でいる……だと?」 「ああ、あの事で呼んだのは私の方だったわね。ごめんなさい。」 「随分と……熟睡してたな……出直すか?」 「少し待っててもらえるかしら?ここでも話は出来るわよ。」 「早くしろ。……俺も忙しい。」 「不法侵入?」 「……誰が、だ?」 「誰って?馬堂さんしかいないでしょ。」 「刑事相手に寝言を……言うな。……鍵が開いていた。」 「やだ、ほんと?いつの間にか寝てたみたいね。」 「えらく迂闊だな。……散々注意しろ……と忠告したが。」 「ええ、分かってるわよ。馬堂さんだったから運が良かったんでしょうね。他人に入られたら間違いなく警察を呼んでいたわ。」 「フン……身内でない男は、良いのか?女は男を部屋に易々入れないもの……だと聞いた。」 「……ぷふっ。」 (……またか) 「あはははははっ!あはっ……馬堂さんったら、ほんとお堅いわね!男だとか女の前に、仲間じゃない。ぷふっ……今更、気にするなんてほうがおかしいわよぉ。」 いつもの発作かと馬堂は呆れ返った。どんな真面目な話だろうが、はまりどころを見つけられてしまったら最後、彼女はまともに話を出来る状態ではなくなってしまう。会話にならないくらいだ。 「はふぅ……というか、明らかにそれって、一条さんから聞いた話よね?」 「アイツには、黙っておけ。……それに俺はお前を女扱いしちゃいない。」 別段、馬堂は常日頃から葛を女性扱いしたことはなかった。彼女とは孫に近いぐらい年が離れていたし、その上そういう扱いを葛はあまり甘んじて受けないのだ。 (あえていうなら仲間扱いか……。) 馬堂は内心自嘲した。また葛が笑う元を作るつもりはないので、言う気は更々なかったが。 「そうなの?……ふふっ。そうよね。でも、そんなに心配するような事かしら?」 「性分だ……刑事として一般市民の安全ぐらいは指南する。」 「あら、意外ね。」 「からかうのか?」 「いいえ、そんなつもりはないわ」 「ねぇ……ところで。」 「何だ?」 「一時間後。起こしてくれない?馬堂さん。」 「……まだ寝る気か?てめぇの立場を……弁えろ。俺はかえ」 言葉は続かず、押しつけられた約束も違えることは不可能になる。葛が本格的に寝にはいったからだ。 ――いつもの嫌味……言い忘れちゃったわね。あのとても済まなそうな顔が見たかったのに。 葛は込み上げてきた笑いを堪えながら、眠るのだった。 PR |
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