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2010 05,19 00:17 |
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狐+冬馬視点 『ケース・バイ・ケース 』 何気ない日常が最悪の一日に変貌してしまった。 虎子の兄――上下山狐によって。 颯爽と流れる白い雲と透き通る青い空。 構内で休み時間を独り謳歌できる数少ない場所――屋上のベンチで仰向けで読書するのがアタシの日課だ。ここなら五月蠅い輩は滅多に来ない。 「くあ~っ……あーあ、ねみぃー。」 どこか聞き覚えのあるような声が近くで聞こえる。 「お。メガネ女。」 ――最悪だ。 その事態に対しては一言で片付いた。 広い学園内と言えども、同じ学年なら顔を見合わせることはある。けれど、相手は一つ上の学年だ。一年のアタシ達とは離れた校舎で授業を受けている。せいぜい会う可能性があるのは共同で使用される食堂か図書室やその他の特別授業室ぐらいだ。 なのに、いつもの屋上で最も会いたくない(この場合は虎子を除く)奴に遭遇してしまった。しかも、顔見知り程度の自分にわざわざ挨拶までしてくる。 あからさまに目線を逸らす。気まずい空気が流れたけど、無視を決め込む。 「おい。……無視かよ?」 鋭い視線が得意気にこちらへ向けられる。 「あの……勝手に覗き込まないでくれません?」 「ちょっと話すぐらい良いんじゃね。お前、虎子のダチだろ?」 「何か話すことあります?」 起き上がって睨んでも効果は望めず。仕方がないのでさっさと話を済ませることにした。小憎たらしい虎子といい、コイツも人の話を聞かない人種に違いない。 「おーあるある。」 アタシが座っているベンチの横に立つと、奴は景色を眺め、興味無さそうに言った。強引に話を進められた気がするけど。出来たら、こんな男と一緒の時間なんか一秒足りとも過ごしたくもない。どうしたって容姿が似ても似つかないはずのアイツを思い出すからだ。 学園内が見渡せる屋上はアタシのお気に入りなのに、今日から来たくなくなるかもしれない。 「でだ。うちの妹と仲良くしてくれてる?」 「は?……思われている程仲良くありませんけど。で……それだけですか?」 「そんだけ……?まあ、その顔はムカツクけどな。」 「……話聞いてます?」 「かはは!先輩扱いすんのも今更遅くねぇか?」 「何がですか。」 「最初からタメ口聞いてんだろ?お前。」 ニヤニヤ笑っていたかと思えば、要点を付くセリフを口にする。得体の知れない奴とはコイツの事を言うのだろう。妖怪じみた狐に雰囲気そっくりの男だし。 「あの時は状況が悪かったし……しかも、アンタ一つ学年上じゃん。」 「暇潰し、だから特別。」 「それはどうも。どっちにしても最悪なのは変わらないんだけど。」 「んだよ?」 「ああ、どう考えてもアンタと会うなんて……最悪。」 「あー?まだアレ気にしてんの?……いーい加減時効だろ。」 「いや……忘れる方が無理に決まってるだろ、アレは。」 歩巳にあんな事しておいて、平然と居られるなんて最低の男だ。 「俺は楽しくて仕方ねぇのに。」 「楽しい?何でよ?」 「ある情報によると、お前虎子のお気に入りだってな。」 「は?」 「虎子に随分好かれてんのなー、お前。」 「なっ……同じ内容で二度も言うなっ!」 「おお、鋭い突っ込み入りましたー。」 「……~~ッ!あ、アタシはあんな奴の…!ちっ、違うから!だいだいどこからそんな話」 「歩巳チャンからv」 「……あんのバカ。」 「案外図星かよ。」 「バカ、黙れ。」 「嫌だね。黙ってなんかやんね。」 「イライラするから……これ以上しゃべんないで。」 「命令される筋合いもねぇし」 「じゃあ……どいて。」 「どくつもりもねぇよ?」 「ば……ばっかじゃないの。」 「観念しとけ。お前を弄ると虎子が悔しがる訳だ。ああー、おもしれぇな。」 じりじりと追い込まれた。 両脇には奴の腕が逃がさないとばかりにあって、完全に包囲網が出来上がっている。でも、下手に騒いで大事にされるのは御免だ。 「で、アタシは今から何されると?」 「いやはや……まあ、聞いても逃げるチャンス与えるつもりもねぇけど。」 「……アンタと関わるとホントろくな事なさそう。」 「まさか優しくしてもらえると?」 「…………別に。」 「俺としては可愛いチャン限定だからv」 「じゃあ――その部類に入ってないからこうなる訳だ?」 何か急に黙られたし。 「…………アホか?」 「あ、アンタこそ阿呆の中の阿呆だろうが!」 「いやいや、ないんじゃねーの。……こんだけして。……まだわかんねぇの?」 「何?」 「……なら良いや。わからしとくまでだし。」 「は!?訳わかんないし。や、ちょっ――」 僅かな息が唇を掠めるくらいの距離に縮まった頃にはもう遅かった。影が顔を覆い、思考は停止状態に陥る。 骨張った指がアタシの唇をなぞっていく。ぞくりと冷や汗が流れ、柔らかな感触が身体の感覚を麻痺させた。突き飛ばすタイミングも忘れて。言葉すら吐き出せない緊張感の中ソイツの顔は至って冷静だった。既に離れたはずの温度だけが残って、アタシは思わず唇を指で覆い、赤面した。 何で……こんな奴にこんなタイミングでこんな事されなきゃならないんだ? アタシは心底狼狽した。恐る恐る見上げた先には、逆光でも分かる程の勝ち誇った顔。 「可愛くねぇヤツにこんな迫るかよ?普通。」 「っ……可愛くなくても……出来るだろ、アンタなら。」 「買いかぶり過ぎだって。なんなら……これ以上もするか?」 「これ……以上?」 「おー、聞きたい?」 「なんか……遠慮しとく。」 「遠慮すんなよ。つまりは、お前にあん――おっと、あぶね!」 「バカ野郎っ。いい加減タチ悪い冗談は止めろ…!」 「いいや、冗談じゃねぇし?」 「じょ、冗談じゃないなら何だっていうんだよ!」 「真剣且つ真面目なお話。」 「……アンタが言うと説得力ひとつっもないんだけど」 「あ~もう…っ!アンタなんか嫌いだ……大っ嫌いだ!」 「ふーん…?」 「何だよ。文句あるの?」 「嫌いで上等ですよ。ゆっくりやらせてもらうし。」 「……何でそこまでアタシに拘るんだ。」 「そだな……もし理由があったらどーする?」 「嫌に決まってるじゃん。てか、あっても困る。」 「あの虎子に懐かれてるお前に興味がある。今はそんだけかな。」 「……何それ。」 「という訳で宜しく。じゃな。」 「ちょっと……」 「?」 「一応、アンタが誰かくらい聞く権利はあるだろ。アタシにも。」 「虎子の兄貴以外に何かあんのか?」 「……名前、とか。」 「まあ良いけど。ただしお前も教えろよな。」 「風茉莉……冬馬。」 「狐。名字は上下山。けど、呼ぶなら狐で構わねぇよ。」 「誰が呼ぶんだよ……あ、アタシはただ知りたかっただけだし。そんな必要もないだろ。」 「へぇー……冬馬、か。」 「いきなり名前を呼ぶなっ!!」 「いてっ」 PR |
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